堪りかねた専務が自宅には来ないよう栗山さんに告げたのだが、それが裏目に出た。部屋に入れてもらえなくなった栗山さんは、マンションの外で大嶋専務の行動を監視するようになったんだ。
そして大嶋専務が外出すると後を付け、女性と会っていることが分かると、その女性に嫌がらせをして専務に関わるなと脅すようになる。
「その中には、私の母が世話になっている茶道の先生が居て母が激怒していたよ。他にも学生時代の友人、親友の妹……その全てに嫌がらせをしていたんだ」
「うそ……栗山さんがそんなストーカーみたいなことするなんて……」
どうしても信じられず、栗山さんの体を揺すって真意を問うが、彼女は無言を貫き肯定も否定もしない。
真実が分からず困惑していると、壇上で様子を窺っていた根本課長が口を開く。
「だから栗山さんは、専務秘書から外されたのよ」
「えっ……」
「大嶋専務から相談を受けた時は私も驚いたわ。栗山さんがそんなことをするなんて信じられなかった。でも、事実だったのよ。
当初、人事担当役員は解雇もやむを得ないと怒り心頭だったけど、私が引き受けて監視するということで話しが落ち着いたの」
そういう事情があったから、栗山さんは誰の秘書にも就かず、根本課長の補佐をしていたんだ……
もう栗山さんが専務のストーカーだったということ認めるしかない。そう思った時、今まで黙秘を貫いていた栗山さんが声を上げて笑い出す。
「落ち着いた? 冗談じゃない! 私の大嶋専務への気持ちがそんな簡単に消えるはずないじゃない。ずっと、どうやったら大嶋専務と付き合えるだろうって考えていたわ。そんな時よ、八神常務が社長の養子になって常務として本社に現れたのは……」



