「我々も事を公にして会社の恥を世間に晒すのは本意ではない。君は義理とはいえ創業者の身内だ。事実を認め心から謝罪し、今後一切、バイオコーポレーションに関わらないと約束するなら訴えるようなことはしない。どうだ?」
慈悲の言葉に山辺部長はその場に崩れ落ち、肩を震わせる。
なるほど。そういう結末が用意されていたのか。訴えると言ったのは山辺部長を改心させる為の作戦で、本気でそんなことするつもりなんてなかったんだ。
威勢が良かった山辺部長はすっかり大人しくなり、まるで別人のようにシュンとしている。
「本当に……訴えないと? 彼女も訴えないと約束してくれますか?」
「あぁ、約束する」
愁が大きく頷き、これで一件落着……と思った時だった。会場に響き渡る甲高い声――
「訴えたいなら、訴えればいい!」
えっ? この声って……
きっと唯も同じことを思ったのだろう。私達は顔を見合わせ言葉を失う。そしてふたり揃って振り返れば、予想していた人物が真っすぐ壇上の愁を睨み付けていた。
「栗山さん……どうして?」
大股で壇上に向かって歩き出した栗山さんが私達の横を通り過ぎようとした時、唯が彼女の腕を掴み悲痛な声を上げるが、栗山さんはその手を強引に振り払う。
そして愁の前に立つと躊躇うことなく、自ら自分が内通者だと暴露した。すると床に突っ伏していた山辺部長が立ち上がり「彼女は関係ない」と栗山さんを庇う。
「山辺さん、もういいの。山辺さんだけを悪者にしたくない」
「しかし……」
「私の夢は叶わなかった……だからもういいの」
えっ……それ、どういうこと?



