愁の衝撃発言に事情を知らない社員がどよめく。もちろん私や唯も例外ではなかったのだけれど、驚きのポイントは他の社員とは少々違っていた。
「刑事告訴って……根本課長を訴えるってことだよね? そんなことして大丈夫なの?」
唯が焦ってそう言うから、思わず壇上の社長と根本課長に視線が向く。
大丈夫なワケない。根本課長を訴えれば、バックに居る社長の奥さんもただでは済まない。それを分かっていて社長は告訴を許したんだろうか?
もしそうだとしたら、これは単純な秘密漏洩事件じゃない。社長一族を血の繋がりで二分する骨肉の戦いだ。山辺部長はその戦いに巻き込まれ利用されたってことか。
で、その山辺部長はというと、怯むどころか薄笑いを浮かべ平然としている。
「内通者? なんのことです? 意味が分からない」
「ほーっ、この期に及んでまだしらばっくれるのか。なら、証拠を見せてやる」
愁はそう言うとスーツの内ポケットから三つ折りの紙の束を取り出し、山辺部長に差し出す。
素早く紙の束を受け取った山辺部長が食い入るようにそこに書かれている内容を確認していたのだが、突然狂ったように紙の束を丸め床に放り投げた。
「よくも、こんなでたらめを……ここに書かれているのは全て作り話し。でっち上げだ!」
「それなら、内通者本人に確かめてみるか?」
その一言で山辺部長の顔色が変わり、拳を握り締めブルブルと震え出す。
そんな山辺部長の姿をため息混じりに眺めていた愁が、今までとは打って変わって穏やかな口調で諭すように語り掛ける。



