アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


唯にだけは事情を説明したかったが、山辺部長が近付いて来るのが視界に入り、口を噤む。その時、壇上では何事もなかったように愁の挨拶の続きが始まった。


会場内は水を打ったようにシンと静まり返り、全員の目がCEOへと向けられる。


「バイオコーポレーションの社員の皆さん、初めまして。メディスンカンパニーのネイサン・コリンズです……」


山辺部長は喉の突起を上下させ「いよいよだ……」と興奮気味に呟く。そして私も息を呑み壇上のCEOを見つめた。


ここまで来たら、CEOを信じるしかない。お願いだから私との約束を守って……


激しく鼓動する心臓を押さえ、祈るような気持ちで注目していると、CEOは愁の肩に手を置き「バイオコーポレーションの八神氏と力を合わせ、合同会社を発展させていきます」と声高らかに宣言したんだ。


あぁ……良かった……


拍手が鳴り響く中、一気に全身の力が抜け放心状態。しかし期待していた内容ではなかった山辺部長は怒りを爆発させ、大声で叫びながら壇上に向かって突進して行く。


「嘘だ! そんなはずはない!」


そしてCEOに約束が違うと掴み掛かったのだけれど、愁が素早くその手を払い除け、低い声で怒鳴る。


「山辺部長、アンタはバイオコーポレーションの社員だろ! 恥を知れ!」


それでも抵抗する山辺部長に向かって愁は更に続ける。


「バイオコーポレーションは、山辺部長と、山辺部長に本社の情報を流していた内通者を営業秘密侵害行為で刑事告訴することになった」