CEOはハッキリ言葉にはしなかったが、そこまで言われたら鈍感な私でも察しはつく。しかしさすがに即答はできなかった。
紳士だと思っていたCEOが、そんな交換条件を出してくるなんて……
正直、激しく動揺した。でも、ここで簡単に引き下がれば、私の本気はその程度かと思われてしまう。それに、今CEOを拒んだら、もう愁を助けることはできない。
私に選択の余地はなった。
こうなったらヤケクソだ。CEOに真の大和魂ってヤツを見せてやろうじゃないの!
ちょっと違うような気はしたけれど、幸か不幸か、私の中途半端なプライドがメラメラと燃え上がる。
「分かりました。必ず伺います」
「OK! 交渉成立だ」
CEOが親指を立てたのとほぼ同時に、複数の足音が近付いてきて緞帳が捲り上げられる。その先に居たのは、青い顔をしたバイオコーポレーションの社長だった。
社長の後ろには数人の社員の姿も見える。おそらく会場に居た社員総出でCEOを探していたのだろう。
「君、これはいったいどういうことだね?」
当然、社長の怒りはCEOを会場から押し出した私に向けらる。そしてCEOには、自分の会社の社員が無礼なことをしたと平謝りだ。
しかしCEOは涼しい顔で「鬼に見つかってしまったね」とジョークを飛ばし社長の肩をポンポンと叩く。
「彼女とは、とても有意義な話しができましたよ。このような素晴らしい社員が居るバイオコーポレーションが羨ましい」
社長はまだ何か言いたげだったが、CEOが私を庇ったのでそれ以上、追及されずに済んだ。



