今更ながら恐縮して縮こまっていると、CEOが目尻にシワを寄せ、優しい声で私の話しを聞こうと言ってくれた。
「早くしないと鬼に見つかってしまうよ」
そうだ。今頃、皆が消えたCEOを必死に探しているはず。見つかるのは時間の問題だ。
「あ、はい。では、単刀直入にお聞きします。CEOは八神常務の味方ですか? それとも……敵ですか?」
「なるほど、そういうことか。では、その質問に答える前に、私の質問に答えてもらおう。君にとってどちらの答えが好ましいのかね?」
私は迷わず、愁を裏切らないでくださいと頭を下げる。
「でももし、それが不可能なら……」
「不可能なら……どうする?」
「私が八神常務にお願いして、合同会社の経営権を放棄してもらいます。経営の方はメディスンカンパニーが単独で行ってください。バイオコーポレーションは他の国と同様、一参加企業として加えて頂ければ結構です」
すると今まで穏やかに微笑んでいたCEOの表情が険しくなる。
「経営権を放棄する? 君にそんな権限があるのかね?」
「いえ、私はただの一般社員です。権限なんてありません。でも、八神常務を守る為だったら、私……どんなことでもするつもりです」
「ほーっ……どんなことでも?」
CEOの声のトーンが変わり、そして私を見る目付きも変わる。それは男性の本能を感じさせる野性的な目だった。
「では、君の覚悟がどれほどのものか確かめたい。私は今夜、このホテルのスィートに泊まる予定になってる。午後九時、私の部屋に来れるかね?」



