アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


CEOは、バイオコーポレーションが経営の中心になることが不満なんだ。だったらその不満を解消すればいい。とにかく、今ここでCEOに話しをさせちゃダメだ。


そして追い詰められた私が取った行動は、全力で会場の入り口に駆け寄り、中に入ろうとしていた大柄のシルバーヘアの男性の入室を阻止するというものだった。


「Are you CEO of Medicine Company?(メディスンカンパニーのCEOですか?)」


早口で問うと男性は面食らったような顔をしていたが、戸惑いながらも「……Yes」と答えた。


その返事を聞き、覚悟を決める。「Please listen to me!(私の話しを聞いてください)」と叫び、CEOに体当たりをして渾身の力で会場の外に押し戻す。


でも、CEOが素直に私の話しを聞いてくれるとは思えない。だからまず、不審者ではないということを説明しようとした。


だが、その説明する前にCEOが意表を突いた行動に出る。なんと私の体をヒョイと小脇に抱え廊下を走り出したんだ。


へっ? 何? この展開……


驚きの余り抵抗できずに居ると、彼は隣の宴会場の扉の前でようやく私を解放し、流暢な日本語で「かくれんぼをするのは、五十年ぶりだよ」と嬉しそうに笑う。


薄暗い宴会場に入り、緞帳(どんちょう)の奥に身を隠したとろで、CEOが自分の母親は日本人なのだと説明してくれた。


「あ、だから日本語がお上手なんですね」

「うむ、しかし日本女性は慎ましく控えめだと思っていたが、君のような大胆な女性も居るんだね。初対面でいきなり全力で体当たりしてくるとは……ニューヨークでもそんなことをする女性は居ないよ」