アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


自信に満ち溢れた素敵な笑顔……


本当は、そんな愁の姿をこの目に焼き付けておきたかった。でも、その笑顔は私には眩し過ぎて……直視できない。堪らず目を伏せると、愁の力強い声が聞こえてくる。


「合同会社設立活動は、住んでいる国によって治療を受けられないという悲劇を無くしたい……そんな思いから始まりました。

当初は反対の声も多く困難なこともありましたが、有り難いことに各国の製薬会社が私の考えに賛同してくださり、ようやくこの日を迎えることができました。中でも会社設立に尽力してくれたのが、アメリカのメディスンカンパニーです」


この挨拶で、愁がメディスンカンパニーのCEOを一ミリも疑ってないということがハッキリした。


私の最後のお願いだったのに……聞き入れては貰えなかったんだね。


「この後、そのメディスンカンパニーのCEOも含め、参加企業の代表者が記者会見を行います。で……これは予定には無かったのですが、メディスンカンパニーのCEOから皆さんに挨拶をしたいという申し出がありまして、急遽、ここで紹介させて頂くことになりました」


えっ、CEOがここに来るの?


胸騒ぎがして山辺部長の顔を覗き見ると、目をギラつかせ愁を凝視している。


まさか……


山辺部長に体を寄せ、この場であのことを発表するのかと訊ねると、山辺部長の目がなんとも気味の悪い光を放つ。


「ああ、そうだ。今からCEOが合同会社を離脱すると宣言する。八神常務のリアクションが楽しみだね」


その企みを聞き、愁を守らねばいう強い使命感が沸々と湧き上がってきた。