アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


「なんだかよく分かんないんだけど、所長がね、私に行けって」


なんでも、研究所から出席できるのはふたりだったそうで、なぜか唯が選ばれたそうだ。


「そう、所長が……それより、そのスーツ派手過ぎない? めっちゃ目立つんだけど……」

「あぁ、これ? 発表会見の後にパーティーがあるって聞いたから気合い入れて一番いいスーツ着てきたんだけど、皆地味だね」


当然だ。唯はお客様気分で浮かれているけど、これは一応、仕事なんだから。


やれやれと呆れていると、唯の隣で不気味な笑みを浮かべていた山辺部長と目が合い、一度は解れた緊張が再び高まる。


そして山辺部長は更に口角を上げ「新田君、いよいよだね」と嬉しそうに私の肩を叩いた。


「は、はい……」


私が上ずった声で返事をした直後、一段高くなった壇上にマイクを持った根本課長が現れ、合同会社の設立発表の打ち合わせが始まった。


「打ち合わせの前に、社長の挨拶があります」


根本課長が右手を差し出した先のドアが開き、社長がゆっくり会場に入って来る。そしてその後に続いて壇上に上がったのは、愁。


久しぶりに見る愁は少し髪が伸び、自信に満ち溢れた顔をしている。


愁……会いたかったよ。


彼の姿を間近で見た瞬間、様々な感情が入り混じり涙が溢れてきた。が、今は感傷的になっている時じゃないと奥歯をグッと噛み締める。


社長は根本課長からマイクを受け取ると、我が社がどれほど医薬品部門に期待しているかを切々と語り、愁を激励する。そして今度は愁がマイクを持ち、胸を張って一歩前に進み出た。