私の気持ちが通じたかどうかは不明だが、ずっと喧嘩腰で否定的なことばかり言っていた愁が『……心配するな』と落ち着いた口調で呟く。そしてずっと留守電にしていたこと謝ってきた。
『合同会社の設立発表までに間に合わせたいことがあって、色々忙しかったんだ』
……忙しかった?
どんなに忙しくても、しようと思えば電話の一本くらいできるはず。そんな言い訳で私が納得すると思っているんだろうか? でも、いざ「誰と結婚するの?」って聞こうとすると言葉が出てこない。
愁の口から真実を聞くのが怖くて堪らない私は、やっぱり中途半端にプライドが高いヘタレ女だ。
何も言えなくなり押し黙ると、なぜか愁も沈黙する。なんとも言えない不穏な空気が流れ、何か言わなくてはと口を開いた時『実は……』という低い声が聞こえてきた。
『日本に帰ってから言うつもりだったんだが……』
えっ、それって、まさか……
イヤな予感がして大きく鼓動した心臓が切ない悲鳴を上げる。
聞きたいけど、聞きたくない。ちゃんと決心したはずなのに、今ここで全てが終わると思うと寂しくて……思わずスマホを耳から離し、その場にしゃがみ込んでしまった。
しかし逃げていても仕方ない。現実を受け入れるしかないんだと自分に言い聞かせ、恐る恐るスマホを耳に当てたのだが、その時には愁の話しは終わっていて何を言ったのかは分からずじまい。でも、最後の一言で全てを悟った。
『……黙っていて、すまなかった』
愁との関係が終わったのだと確信した私は、溢れ出る涙を拭い最高に明るい声で言ったんだ。
「ヤダ、私が何も知らないとでも思っていたんですか? そんなのずっと前から分かってましたよ」
それは、今まで生きてきた中で、一番辛く苦しい強がりだった。



