アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


これはえらいことになった……


山辺部長との電話を切るとすぐに愁に電話を掛ける。しかしどうせ今回も留守電だろろうと端から諦めていた。だから、メッセージを残すことが目的だったんだけど……


『……はい』

「うそ、出た」

『出たとはなんだ? 人を幽霊みたいに言うな』


本当は言いたいことや聞きたいことが山ほどあったが、今はそれどころじゃない。もちろん愁のツッコミもスルーして山辺部長から聞いた話しを伝える。でも、愁の反応はすこぶる悪い。


『あのなぁ~前に説明したろ? メディスンカンパニーのCEOとは、ちゃんとコミュニケーションは取れている。それは山辺部長をハメる為の作戦だ』

「でも、本当にCEOが裏切っていたら……」

『それは絶対にない。ったく……朝っぱら何寝ぼけたこと言ってんだ』

「こっちは夕方です。寝ぼけてなんかいません」


話しは平行線を辿り、私がどんなにCEOが怪しいと言っても愁は聞く耳を持たない。しかしここで引き下がるワケにはいかない。


「愁の夢は私の夢……病気で苦しんでいる人が、世界中どこに住んでいても平等に治療を受けられるよう、愁が頑張ってくれてるのは凄く嬉しい。

でも、その夢を叶える為に設立した合同会社のせいで、愁がバイオコーポレーションを辞めることになったら……私はそれが心配なの。だから今言ったこと、お願いだから忘れないで」


もちろんそれは、嘘偽りのない私の本心。そしてもうひとつ、どうしても伝えられない想いがあった。


――愁にバイオコーポレーションの社長になって欲しいから、私はあなたを諦めるんだよ……