合同会社設立に向けた話し合いが進むにつれ、参加する一部の企業から、バイオコーポレーションに任せて本当に大丈夫か……という声が出始めたそうだ。


一度はバイオコーポレーションが経営の中心になることを承諾したものの、医薬品業界に初参入する知名度の低い会社がどこまでリーダーシップを発揮して多国籍企業をまとめていけるか、不安になったのだろう。


そしてその声は徐々に大きくなり、メディスンカンパニーのCEOにこっそり伝えられた。もちろん愁はそんな報告があったということは知らない――というのが山辺部長の説明だ。


「それが本当なら、わざわざ日本に来てから言わなくても、すぐにそう言えばいいじゃないですか?」

『いや、それでは面白くないからね。私がそうしてくれと頼んだんだよ』

「えっ……山辺部長が? どうして?」

『そんなの決まっているだろ? 八神常務にバイオコーポレーションを去ってもらう為だよ』


そこまでして愁を潰そうとしているのだから、当然、相当な恨みがあるのだろうと思った。けれど、山辺部長は愁本人に特に恨みはないと言う。


「はぁ? 意味が分からないんですけど……恨みがないのに、なぜ?」


困惑しつつ理由を聞くと、山辺部長は飄々とした声で『一言で言えば、恩返し……』と答えた。


益々意味が分からない。誰に対しての恩返しなのよ?


しかし山辺部長からはそれ以上の説明はなく、反対に『新田君も八神常務が会社を辞めれば、嬉しいだろ?』と明るい声で問われ何も言えなくなってしまった。