「俺はお母さんとも約束した。お前を必ず幸せにするってな。だからお前がなんと言おうと、この約束は一生、守り抜く」

「八神……常務」


その一言がとどめとなり、私の見栄やプライドを木っ端みじんに吹き飛ばす。


「私も、ずっとずっと好きだった……」


やっと自分の正直な気持ちを言葉にすることができた。そのことが嬉しくて、この上ない喜びを感じていたのだけれど……


「わわっ!」


突然抱き上げられ、こめかみに八神常務の唇が触れる。


男の人に、こんな風にお姫様抱っこをされるの初めて……


驚きと恥ずかしさで八神常務のシャツの襟をギュッと握り締め俯くことしかできない。すると彼がゆっくり歩き出し、向かっているが寝室だと分かると今度はさっきとは違う不安感が体を硬直させる。


この流れは、もしかして……ヤダ、どうしよう。まだ心の準備が……


そんな私の不安を感じ取ったのか、八神常務は寝室の広いベッドに横たわる私の横に腰掛け、暫くの間、髪を撫でてくれていた。


「実はな、去年のクリスマスにお前の家の玄関で別れてからずっと後悔していたんだ。無理やりにでもお前を連れてくれば良かった……ってな」


それは私も同じ。ずっと、後悔していた。


「今だから言うけど、本当はあの時、好きって……八神常務が好きって言うつもりだったの」


私の髪を撫でていた手にそっと触れ顔を上げれば、間接照明に照らされた八神常務の横顔が寂しげな笑みを浮かべる。