「お前が俺の秘書だと知れば、向こうも何か情報を手に入れようと動いてくるはずだからな。悟れないように気を付けろよ」


呆れた……私に振られたことにしろと言ったのは、この為だったんだ。でも、それって全部八神常務の都合で私の気持ちは完全無視だよね。


そして何より気に入らなかったのは、密かに私を利用しようとしたいたことだ。母親があんな発言をしたからって、それを鵜呑みにして私を東京に連れて行こうだなんて軽過ぎて話にならない。


で、私が自分に気があると分かると惚れているから逆らわないだろうと強引に東京に呼んでスパイをしろと迫る。自己中にも程がある。


「要は、私をいいように利用しようとしているだけでしょ?」

「利用? その言葉は聞き捨てならないな」

「だってそうじゃないですか。たまたま私がその条件に当てはまったってだけで、他に適任の人が居れば、その人が呼ばれていたんですよね?」


そう、私じゃなくても……よかった。誰でもよかったんだ。


こんな情のない人を今まで忘れられずに居たのかと思うと悔しくて……自分が情けなくなる。


夢中で八神常務の腕からすり抜け、彼の胸を押すと「……もうこんな所に居たくない。会社をクビになってもいいから地元に帰る」と訴えた。するとイヤらしく私の一番痛い所を付いてくる。


「翔馬のことはいいのか? もうすぐバイオコーポレーションの研究員を選ぶ審査が始まる。成績は申し分ないが、確実とは言えないからなぁ。お前がバイオコーポレーションの社員じゃなくなったら厳しいぞ」


信じられない……それって脅しだよね。