八神常務は情報漏洩の件で本社に山辺部長の協力者が居ると睨んでいたので、本社の人間は信用できないと思っていた。そして私は山辺部長の部下だったから、本社に異動になった後、山辺部長と親しく交流しても不自然ではない。そう考えた。


「どこの部署に行っても他の社員と問題を起こしていたあの山辺部長が、お前とは割と上手くやっていたからな」


いやいや、それは私が無理やり山辺部長に合わせていたからで、決して上手くいってたワケじゃない。


「でもな、そのことをお前に頼もうとした直前、あの気絶事件だ」


八神常務は、気絶するくらいイヤな男の言うことなど聞いてはくれないだろうと思い、私を本社に呼ぶのを諦めたのだが、渡米した後、翔馬から実は私が八神常務を好きだったという真実を聞かされ考えを変えた。


「一年後、俺が日本に戻っても情報漏洩の件が解決していなかった時は、お前を本社に呼ぼう。そう決めていたんだ」

「ちょっと待ってください! 八神常務言いましたよね? 私を本社に呼んだのは、秘書になりたいという私の夢を叶えてやろう思ったからだって」

「もちろんそれもあった。だからお互いこれで良かったってことだろ?」


全然良くない。別に私は秘書になる夢を叶えてくれなんてお願いしたこともないし、山辺部長が情報漏洩しているのを探ると約束した覚えもない。何も知らされず、常務命令ってだけで本社に異動して来たんだ。


「で、ここで業務命令だ。お前は秘書課に山辺部長の協力者が居ないか探り、尚且つ、ひつこく迫ってくる俺と仕事をしたくないと山辺部長に相談して俺の味方ではないことをアピールするんだ」

「はぁ?」