アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


そこで八神常務はフェイクの結婚指輪を購入し、その指輪をCEOに見せ、日本に居るフィアンセと籍を入れたと報告した。


「えっ……嘘付いたんですか?」

「嘘も方便。バレなきゃいいんだよ」


CEOの反応は思った以上に良く、今まで見せたことがない弾けるような笑顔で祝福してくれた。そして結婚祝いに何かプレゼントをするから遠慮なく言ってくれと言うので、ここぞとばかりに、合同会社の件を真剣に考えて欲しいとお願いした。


CEOは一瞬しまったという顔をしたが、すぐに「してやられたな……」と豪快に笑い、検討を約束してくれたそうだ。後日、OKの返事が届き、なんとか一年の期限ギリギリで合同会社設立のめどが立った。


「だから、もうこの指輪は用無しだ」


そう言うとソファーの横にあるゴミ箱に指輪を投げ入れた。


「えっ、ちょっ……いくら必要なくなったからって捨てることないでしょ?」


庶民の私には、指輪をゴミ箱に捨てるという行為が理解できず、慌ててゴミ箱をひっくり返し指輪を探し始めたのだが、突然後ろから抱き締められ、ゴミをあさる手が止まる。


今までの私なら、間違いなくこの腕を振り払い『やめてください!』って怒鳴っていただろう。けれど、この包まれている感覚が堪らなく心地よくて腕の中から離れたくないって思ってしまったんだ……


「なんで捨てちゃダメなんだ?」

「そ、それは……プラチナですし、もったいないじゃないですか。売ったらいくらかになりますよ」


真剣にそう言ったのに、八神常務は私の耳元で呆れたようにため息を付く。


「抱き締められたこの状態で、色気のないこと言うなよ……」