会社の将来を左右するような、そんな重要な決断を社長に迫るなんて……
「大事になる可能性があったのに、医薬品事業に参入しなかったら養子にならないって社長を脅したんですか?」
「脅したなんて人聞きの悪いことを言うな……って言いたいところだが、まぁ、半分はお前が言ったように脅したことになるのかもな。でも、俺の中ではちゃんとした青写真が出来上がっていたんだ」
八神常務が目を付けたのは、私と彼が見つけた放線菌。実は大学の研究所が火事になって放線菌が全滅してしたまった後、協力してくれていた海外の企業が撤退し、新たなスポンサーを探していた。
八神常務は自分が協力してくれる製薬会社を見つけるので、放線菌の研究を続けるよう大学に懇願した。彼の熱意が伝わり研究は続行されることになったが、なかなか賛同してくれる製薬会社は現れなかった。
「なら、バイオコーポレーションで引き受ければいいんじゃないかって思ったんだよ。だが、その為には意見が言える立場にならないとな。"並木主任"のままでは、どうにもならない」
「だから後継者になろうと?」
「あぁ、そしてなるべく多くの海外の製薬会社と提携して合同会社を設立し、放線菌から作られる抗生物質を日本だけじゃく合同会社に加わっている各国の製薬会社が各々の国で同時に承認を受けるようにする。そうすれば、世界中で一斉に販売できるだろ?」
「あぁぁ……」
温泉でたまたま愚痴った私の言葉を真剣に受け止め、ここまで動いてくれるなんて思ってもいなかったから、感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。
そして八神常務は渋る社長を説得し、協力してくれる海外の製薬会社を探す為、渡米した。



