アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


「それで山辺部長はバイオコーポレーションに入社したんですね」

「あぁ、創業者の娘婿だからな。邪険にはできない」


入社当初の山辺部長は前職が銀行員だったということもあり、本社の経理部に配属されたのだが、プライドが高く融通が利かない性格の為、経理部の人達とそりが合わず度々揉めることがあった。


経理部に居づらくなった山辺部長は自ら配置転換を願い出て他の部署に移ったのだけれど、そこでも同じことを繰り返し、また他の部署に異動。その後も配属先を転々としてとうとう行き場を失い、あの研究所に辿り着いた。


「問題のある社員だが、そういう事情もあって社長も強く出ることができなかったんだ。だから情報漏洩の件も外部の人間を入れず慎重に進めている」


確実な証拠を掴むまでは、山辺部長には何も言えないってことか……でも、これ以上の情報漏洩を避けたかった社長は、調べる時間を稼ぐ為、やむなく八神常務を犯人に仕立てることにしたんだね。


「作戦は見事に成功。俺はめでたく情報漏洩の犯人にされて本社に呼び戻されたってワケだ」

「そして社長との約束を守って養子になって後継者になる方を選んだ……そういうことですね?」


これが事の顛末なんだと納得したのだけれど、八神常務は即座に否定する。


「……いや、後継者になろうと決めたのは、お前との約束を守る為だ」


私との約束? はて? 八神常務と約束なんかしたっけ?


「まさかお前……忘れたのか?」


驚きの表情で見つめられても全く記憶にない。どうしても思い出せず遠慮気味に訊ねると、八神常務が力無く答える。


「温泉で約束したろ?」