アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


「本社が犯人探しを始め、情報漏洩していたヤツはそろそろヤバいと思っていたはずだ。でも、俺が情報漏洩の犯人ということになれば、真犯人は自分が疑われていないと思い安心するだろ?」


それは犯人にこれ以上情報漏洩させない為の苦肉の策。疑われている八神常務が居なくなったのに同じようなことがあれば、八神常務の無実が証明されてしまう。暫くは大人しく様子を窺っているしかない。


あぁ、なるほどね。そういう事情があったから八神常務は疑いを掛けられても否定しなかったんだ……


「つまり時間稼ぎってこと?」

「あぁ、その間に証拠を掴もうとしていたんだ。だから大嶋常務を研究所に行かせてひと芝居打った」

「大嶋常務……ですか?」


今まで一度も研究所に来たことがない大嶋常務が突然研究所にやって来た真の理由は、研究所の社員に八神常務が犯人だと思わせる為。


大嶋常務は、社食で山辺部長から私が八神常務の彼女だと聞き、私を使おうと考えたそうだ。そして私を会議室に呼び、八神常務が同業他社の人と会っていないか、とか、バイオコーポレーションへの忠誠心はあるのかと意味深な質問をした。


「あれは真犯人に聞かせる為のお芝居だ。本社が俺を疑っていると思わせなきゃいけないからな」

「……あれ、お芝居だったんですか?」


自分が利用されていたのだと分かり開いた口が塞がらない。けれど"真犯人に聞かせる為"という言葉が引っ掛かる。


「でも、犯人が確実に私と大嶋常務の会話を聞いているとは限らないですよね?」