話しを聞き終えた八神常務がまず説明してくれたのは、早紀さんとの関係……
八神常務と早紀さんは親戚で幼馴染み。ふたりの実家が近所だったということもあり、昔から頻繁に行き来していたそうだ。
八神常務にとって早紀さんは妹のような存在で、早紀さんも八神常務を兄のように慕っていた。
早紀さんは、自分の家族に言えないことでも彼には話せたのだと笑顔で八神常務を見つめる。
「私の家族は口うるさい堅物ばかりで家に居てもつまんなかったから、しょっちゅう愁君の家に遊びに行ってたの。高校の時は家庭教師もしてもらってたんですよ。でも、愁君が突然、転勤しちゃって……」
八神常務が私の地元の研究所に異動なり離れてしまっても、何か相談事があると社宅を訪れ、時には泊まることもあったらしい。
だから、あのジャージが置いてあったのか……
「それと、お前が言ってた結婚式のことだが、あれは、俺達の身内が引っ越しの三日後に結婚することになっていて、俺と早紀も招待されていたんだ。だからその話しをしてたんだよ」
「み……うちの結婚式?」
見事なまでの何違い。まさか身内の結婚式の話しをしていたなんて、どうしてあの場面でそんな紛らわしい話しをするかなぁ……
切なさに震え涙した自分を思い出し脱力する。が、聞きたいことはまだあった。
「じゃあ、八神常務の人生を左右する重大な決断ってなんだったんですか? 私は、結婚をするかどうか迷っているんだと思ってたんですけど」
その疑問を口にした途端、彼の表情が硬くなる。
「……それは、お前とふたりっきりで話したい」



