アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


「そういえば、お前、さっき妙なこと言ってたよな。"奥さん"とか"不倫"とか……」

「あ、それは……」


そうだった。そっちの問題が残っていたんだ。


奥さんがここに居るのはめっちゃ不自然だけど、八神常務が何も気付いていないのなら、わざわざこっちから言う必要はない。


このまま何もなかったことにしようと思っていたら、彼女が今にも泣き出しそうな顔で翔馬に縋り付き、嫉妬心を露わにする。


「翔ちゃん、どっかの奥さんと不倫してるの? 酷い!」


すると慌てた翔馬が首をブンブン振り「俺が好きなのは早紀(さき)ちゃんだけだよ」って彼女の手をギュッと握った。


彼女、早紀って名前なんだ……いや、そんなことより、せっかく上手く誤魔化せそうだったのに、どうして八神常務の前でそんなこと言うかなぁ……これじゃあ自ら地雷を踏んで自爆するようなものだ。


これは間違いなく血の雨が降る。そう確信したのだけれど、当の本人、八神常務は特に怒るでもなくイチャ付くふたりの様子を普通に眺めている。と、その時、翔馬が「もしかして……」と呟き、私に冷ややかな視線を向けた。


「まさかとは思うけど、姉貴さぁ、早紀ちゃんが八神さんの奥さんだと思ったとか?」


それを聞いた八神常務と早紀さんが一斉に「ええっ!」と叫び、私を凝視する。が、すぐにふたりは肩を震わせゲラゲラ笑い出した。


「翔ちゃんのお姉さんって面白い人だね」


早紀さんの人を小馬鹿にしたような物言いと、お腹を抱え大爆笑している姿にムッとしてついムキになって聞いてしまった。