アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


「あぁ、怒ってるさ。でもな、怒っているのは翔馬にじゃない。俺に断わりもなく勝手に帰ったお前に怒っているんだ」


へっ? 私?


なんだか話が噛み合わず変な雰囲気。


「お前にすっぽかされたのは、これで二度目だ。一度目は俺の送別会。そして二度目が今日の二次会。俺はお前が来ると思ったから参加したんだぞ」

「えっ、そっち?」


いくら腹が立ったとしても、そんなことを言う為にわざわざここに来たっていうの?


そして冷静になって考えてみれば、八神常務がここに居ること自体おかしな話しだ。


どうして八神常務は私がこのマンションに住んでいるって知っていたんだろう? それに、この部屋に来るには部屋のカードキーがなければエレベターにも乗れないんだよ。いったいどうやってここまで来たの?


その疑問を八神常務に問うと「なんだ、翔馬に聞いてないのか?」と訝し気な顔をする。


「ここは俺の部屋だ」

「えぇーっ! この部屋のオーナーって八神常務だったんですか?」

「あぁ、翔馬からお前がマンションを探してるって相談を受けたから、ここに住めばいいって言ったんだよ」


翔馬が言っていた心の広い神様のような知り合いというのは八神常務のことだったんだ……


聞けば、ふたりは八神常務がアメリカに居る間も連絡を取り合い近況を報告し合っていたのだと……


行方不明だと思っていた八神常務の居場所を翔馬が知っていてメールのやり取りまでしていたなんて……


唖然、呆然。一気に体の力が抜けその場に座り込んでしまった。すると八神常務が何かを思い出したように「あっ」と声を上げる。