「こんな時間まで何してるの? 早く帰って来なさい」
『分かってるって。でさぁ、俺の彼女が姉貴に挨拶したいって言ってるから今から連れてくよ』
「えっ? 今から?」
もうすぐ十一時だ。こんな時間に挨拶だなんて……
日を改めてもらおうと思ったのに、もうマンションの下まで来ているとのこと。慌てて洗面所に走り取れ掛けのメイクを直して髪を整える。
でも、翔馬の彼女ってどんな娘なんだろう? 元木さんみたいな優しい娘ならいいけど、ぶっ飛んだ娘だったら許さないんだからっ!
まるで母親のような心境だった。年の離れた翔馬は弟というより、息子という感覚に近い。
気合いを入れて口紅を引くと玄関の扉が開く音がして私を呼ぶ翔馬の声が聞こえる。
わわっ……もう来た。
毅然とした態度で臨むつもりでいたのに、いざとなると全く余裕がない。近付いて来る足音にビビり完全に顔が引きつっていた。
恐る恐る洗面所から廊下に出ると、翔馬の後ろから顔を覗かせた小柄な女性がペコリと頭を下げる。
「こんばんは。夜分にすみません」
えっ……その声、どこかで聞いたような……
でも、それがどこだったか分からず、眉を寄せ必死で思い出そうとしていたら、彼女が顔を上げ上目遣いでニッコリ微笑んだ。その笑顔を見た瞬間、私の目は彼女に釘付けになり、驚きで言葉を失う。
この娘は……



