「うん、ホント、ビックリだよ」

「で、八神常務とは、どういう関係だったの? もしかして……付き合っていたとか?」


いきなり突っ込んだ質問をされ焦ってワイングラスを落としそうになる。


「ま、まさか……へき地に飛ばされたって聞いていたから、その後の様子がちょっと気になっていただけだって」


動揺しながらも栗山さんの追及をかわし、グラスに残っていたワインを喉に流し込む。


嘘は付いてない。私と並木主任は付き合ってはいなかったもの。でも、本社の秘書課でも並木主任は人気があるんだな……まぁ、この容姿に常務という肩書が付けば、興味のない女性は居ないか……


けれど、どんなにアピールしても彼女達にチャンスはない。だって彼は既に人のモノ。並木主任が結婚しているってこと皆知らないのかな?


並木主任に隣に座ってもらおうと必死になっている女子社員に憐れみの視線を向けると、不意に振り返った並木主任とガッツリ目が合った。


「なんだ、そこに居たのか?」


笑顔で近付いて来る並木主任の背後から殺気に満ちた視線が矢のように飛んでくる。


さっきまであんなに優しく接してくれていたのに、この変わりようは何?


豹変した同僚達の冷たい視線に結構な衝撃を受け戸惑っていると、並木主任が平然と隣に腰を下ろし、私の取り皿にあった牛肉の握りを凝視する。


「おっ、旨そうな肉だな。一口食わせろよ」


そう言った時にはもう、私が使っていた箸を持ち牛肉の握りを口に放り込んでいた。それは、いわゆる間接キスってヤツで、この瞬間、私はここに居る全ての人を敵にまわした。