今日はクリスマス。独身の女性社員が多い秘書課だもの、皆それぞれ予定があるはず。わざわざこの日をチョイスしなくても年が明けて落ち着いてからでも良かったのに……


その思いを隣の栗山さんにこっそり耳打ちすると――


「ヤダ、そんな心配してたの? 大丈夫だって! 恋人がいる人は昨日のイヴにデートを済ませているから今日は皆割と暇なのよ」

「あ、なるほど……やっぱ、本命とのデートはイヴか……」

「そういうこと。でもね、秘書課の女子が全員参加なのには、もうひとつ理由があるの」


含み笑いの栗山さんが腕時計に視線を向け「そろそろかな……」と呟いた時だった。個室のドアが開く。


入って来たのは、役職会議で遅くなると言っていた根本課長。彼女の登場で和やかだった場の空気が一気に重苦しくなり、全員がキリリと姿勢を正す。


でも、その後、ドアから顔を覗かせた人物を見た瞬間、根本課長のことなどそっちのけで歓喜の声が室内に響き渡った。


「キャ~八神常務! お疲れさまです」


なんで秘書課の歓迎会に並木主任が来るんだろうと眉を寄せると栗山さんが私に寄り掛かり、辺りを気にしながら耳元で囁く。


「これがもうひとつの理由よ。八神常務も参加するって聞いたから、皆来たの」


あぁ……なるほどね。ここに居る人達は私の為に集まってくれたんじゃなかったんだ。真の目的は並木主任。なんか心配して損した。


「けど、新田さんが探して欲しいって言ってきた並木愁って人が八神常務だったなんて……常務は一年前に苗字が"八神"に変わっていたから"並木"で検索してもヒットしなかったんだね」