――その日の夜、私の歓迎会が会社近くの洋風居酒屋で行われた。


居酒屋と言っても、私が地元で唯と行っていた赤ちょうちんのコテコテの居酒屋とはワケが違う。完全個室制になっているので周りの雑音は殆ど聞こえてこないし、ネクタイを頭に巻いて躍っている弾けたサラリーマンの姿はどこにもない。


柔らかなオレンジ色の照明に照らされた木目調の個室はスタイリッシュで、レストランと名乗った方がしっくりくるよう素敵なお店だ。


初めのうちはなかなか会話に入っていけず、言葉少なに愛想笑いをしていたが、一枚板のテーブルに並ぶ店自慢の様々な肉料理に舌鼓を打ち、アルコールが進むにつれ徐々に緊張が解れ秘書課の人達とも打ち解けていった。


根本課長の印象が強烈だったので、他の秘書課の人達も気が強くて怖い人達なのかもと思っていたが、予想に反して皆フレンドリーで感じのいい人ばかり。中でも対面に座っている四歳下の元木 怜奈(もとき れな)さんは人懐っこい笑顔の可愛い娘。


「新田さんは以前、八神常務と一緒の研究所に居たそうですね。八神常務ってどんな方なんですか?」

「どんなって言われても……う~ん、難しいなぁ。仕事熱心な人……って感じかな?」


いくらなんでも強引で自己中なスケベ男だとは言えない。そして私の初恋の相手……だなんて絶対に言えない。


飲み過ぎて余計なことを言わないように自制しつつ美味しいワインを頂き、それなりに楽しんでいたのだけれど、実はひとつだけずっと気になっていたことがあった。


――どうして今日だったんだろう?