――結婚して幸せな並木主任を間近で見るのはまっぴらごめんだ……


この再会は私にとって残酷な日々の始まりなのかもしれない。


「……どうして? なぜ私を秘書に指名したんですか?」

「秘書の仕事はスケジュールの管理だけじゃない。四六時中一緒に居るんだ。信頼できるヤツとじゃないと組めない」

「でも、私は大嶋常務に呼ばれてここに来たんです。勝手に並木主任の秘書になってもいいんでしょうか?」


すると真新しいスーツを手にした並木主任が私を横目でチラッと見て言う。


「お前を本社に呼んだのは、俺だよ」

「えっ……」

「お前、秘書になるのが夢だったんだろ?」


並木主任には秘書の話しはしてなかったはず。なのに、どうしてそのことを知ってるんだろうと不思議に思ったが、実はずっと前から私が秘書課希望だったということを知っていたらしい。


並木主任にそのことを話したのは、唯だった。地元のあの料亭で私が酔い潰れて眠ってしまった時、その話題になったそうだ。


そういえば、唯が言ってたな。並木主任が私のことばかり聞いてきてテンション下がったって。並木主任はそのことを覚えていて私の夢を叶えてくれたの?


「ギリギリまで今回のことを黙っていたのには色々事情があってな……驚かせて悪かった」

「事情って、どんな事情ですか?」

「あぁ、実は……」


その事情とやらを話し掛けた時、彼のスマホが鳴り出し、ディスプレイを見た並木主任の表情が一変する。


「悪いが席を外してくれ。事情も含め、詳しい話しは後で……」


結局、何も聞けないまま私は常務室を追い出されてしまった。