アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


何か気に入らないことでもあるのかとハラハラしていたら、ようやく顔を上げた根本課長が、ボソッと呟く。


「……地味ね」

「はい?」

「いいスーツだけど、少しデザインと色が地味だわ。もっと明るい色でも全然構わないのよ」

「はあ……」


一応、派手にならないように意識して地味なスーツを選んだのだが、それが裏目に出てしまったようだ。いきなりダメ出しをされシュンとしていると、根本課長が私の足元を指差し言う。


「でも、そのパンプスはいい趣味しているわね。こっちに来てから買ったの?」

「あ、いえ、これは一年程前に購入したもので……」


褒められたことが嬉しくてつい一番気に入っているヒールなのだと嘘を付いてしまった。


「そう、新田さんと趣味が合って嬉しいわ」


でも、そう言って微笑んだ根本課長の目は全く笑っていない。それに気付いた時、ぞわぞわと鳥肌が立った。


課長の心の中が全く読めない。こういう人は要注意だ。気を付けないとどこに地雷が転がっているか分からない。


そして根本課長の案内で最上階の秘書課へと向かい、用意されていたデスクに座って課長から仕事内容の説明を受ける。必死でメモを取っているとぞくぞくと秘書課の社員が出社してきて、その中に同期の栗山さんの姿を見つけた。


「わぁ~新田さん、本当に来たんだね」


駆け寄って来た栗山さんは私の手を握り嬉しそうにニッコリ笑う。なので私も笑顔で応え再会を喜んでいると、根本課長が私を呼び、朝礼が始まった。