アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


指示されていた通り、エレベーターで五階に上がり総務部に行くが、新人のつもりで頑張ろうと始業時間の四十分も前に出社したのが悪かった。まだ誰も来ていないようで、広いオフィス内はシンと静まり返り電気も消えている。


仕方なくドアの前で総務部の人が来るのを待っていたら、エレベーターがある方から足音が聞こえてきて一気に緊張が高まる。


ゴクリと生唾を飲み込み廊下の角に目をやると、背の高いスレンダーな女性が現れ、私に気付くと足を止め小首を傾げた。


彼女と目が合った瞬間、なんて綺麗な人なんだろうと思った。ひとつに纏められた艶やかな黒髪と透き通るような白い肌。少し目尻が上がった瞳が知的な雰囲気を漂わせ、ローズピンクの紅が引かれた唇は妙に色っぽい。


淡いブルーのウエストを絞ったタイトなスーツは、いかにも都会のOLって感じた。


緊張気味に「おはようございます」と挨拶をし、本日付けで本社秘書課に異動になったと告げるとその女性は口角を上げ、右手を差し出してきた。


「聞いているわ。新田さんね。私は秘書課の課長、根本 千尋(ねもと ちひろ)よ。宜しく」

「えっ? 秘書課の課長ですか?」

「そうよ。私ではご不満?」

「い、いえ、こちらこそ宜しくお願い致します」


女性の上司は初めて。少し戸惑いながら根本課長の手を握ると、まるで品定めをするように私の頭のてっぺんから足のつま先まで視線を這わせ、なかなか顔を上げようとしない。