こんな高級マンションの家賃を払っていたら、我が家は即破産だ。翔馬だってそのくらいのこと分かっているはずなのに、どうして……
この危機的状況をなんとかしたなくてはと思い、翔馬を追い掛け玄関を入ると、丁度、翔馬がカードキーでオートロックを解除したところだった。
「翔馬、アンタ、何考えてんのよ!」
自動ドアが開いたのと同時にバカでかい声で怒鳴ったものだから、広々とした吹き抜けのエントランスに私の声が大きく反響して入り口近くのカウンターに居た白髪のコンシェルジュがビクッと体を震わせる。
慌てて口を押さえてビックリ顔のコンシェルジュに引きつった笑顔で会釈すると、目だけを動かし、エントランスをぐるりと見渡す。
そこは、ある意味別世界。非日常的な空間だった。
マーブル模様の大理石の床はピカピカに磨き上げられ、片面の壁は全面硝子張りだ。その窓の向こうに広がっていたのは、都心とは思えない緑豊かなプライベートガーデン。手入れが行き届いた植栽がライトアップされ小さな小川まで流れている。
そしてなんと言っても圧巻なのは、エントランスの中央にある天井まで延びた螺旋階段を模したオブジェ。その周りを囲むようにクリスタルのシャンデリアが優しい光を放ち、それが床に反射して幻想的な雰囲気を醸し出していた。
その美しさに見惚れていると、翔馬が急かすように私の背中を押す。
「豪華だろ? でも、部屋はもっと凄いぞ。最上階の三十五階だからな。とにかく景色が最高なんだ」
「さ、三十五階ですって?」



