まさかね……って思いつつ、目を凝らしてその若者を凝視すると、茶髪のチャラ男は間違いなく我が弟だった。
高校時代は野球部に所属し、常に坊主頭でどこに行くにもジャージだった翔馬が、僅か九ヶ月でここまで変わってしまうとは……
都会の色に染まりまくって浮ついているバカな弟に説教するも、翔馬はうっとおしそうに眉を顰め私の手から乱暴にキャリーバッグを奪い取ると大股で歩き出す。
「ちょっと、待ちなさいよ」
「久しぶりに会ったのに、いきなりそれかよ?」
生意気な態度にイラッとして「いい? 学生の本文はね……」と言い掛けた時、翔馬が足を止め得意げに言う。
「彼女がこれがいいって言うんだよ」
「……か、彼女?」
……翔馬に彼女? 嘘でしょ?
姉の私がまだ誰とも付き合ったことがないのに、十歳も年下の弟に先を越されるなんて……
衝撃が大き過ぎて暫し放心状態。現実逃避していたせいでタクシーに乗るまでの記憶がない。タクシーに乗ってからも翔馬の彼女のことが気になり、街路樹に施された瞬くイルミネーションを眺める余裕もなかった。
「ほら、着いたぞ。このマンションだ」
タクシーを降り、翔馬が指差したのは、見上げれば首が痛くなりそうな白亜のタワーマンション。
「えっ……ここ?」
「そっ! 行くぞ」
なんの躊躇いもなくマンションの玄関に向かって歩いていく翔馬の後ろ姿を見つめ、私は激しく後悔していた。
翔馬にマンション探しを頼んだのは間違いだったのかもしれない……いや、完全に失敗だ。



