横目で並木主任の様子を窺いながら、その自信はどこからくるんだろうって不思議に思っていると、突然彼が「あっ!」と大声を上げる。
何事かと進行方向に視線を戻せば、温泉の看板や建物の電気が消えていていた。
「嘘だろ? 温泉休みか?」
駐車場を見渡しても車は一台も停まっていない。どう見ても休みだ。でも、一ヶ所だけ、受付がある辺りの窓から明かりが漏れている。
それに気付いた並木主任が車を降り、ここまで来たんだから何がなんでも温泉に入ると言って明かりが漏れている窓を叩き出した。すると窓が開いておばあちゃんが顔を覗かせる。
年中無休なのに営業していない理由を聞くと、タンクから湯船にお湯を送っている配管に大きなヒビが入り、お湯が漏れ出したので臨時休業になったと説明してくれた。
「業者さんが見に来てくれたんだけどね、大掛かりな工事になるみたいなんだよ。一週間くらいはお休みだね」
「一週間か……俺、明後日、引っ越すんだよ。最後にここの温泉に入りたかったんだけどなぁ……」
並木主任が引っ越すと知り寂しそうに俯いたおばあちゃんだったが、急に顔を上げ、ある提案をしてきた。
「大浴場は配管にヒビが入った影響で濁りが出たからお湯を抜いちゃったんだけどね、家族風呂は別の配管で湯を送っているから無事だったんだよ。そっちでいいなら入れるよ。どうする?」
温泉に入れると分かった並木主任は大喜びで「全然OKだ」と即答する。



