あぁ、いつものことだ。ウチのボイラーは、十五年前にこの家が建った時か使っている年代物。時々スイッチを入れても反応しない時があるんだ。
「大丈夫ですよ。点かない時は、こうやって連打すれば……あれ?」
いつもならこの対処法で動き出すのに、今日はうんともすんとも言わない。もしや灯油切れかと思い外に出て確認してみたけれど、タンクには半分以上の灯油が入っている。
「ボイラー死んだな」
「えぇ~死んじゃったんですかー?」
すぐにお世話になっている水道屋さんに電話したが、営業時間が過ぎているからか、誰も出ない。
「諦めろ。連絡がついたとしても、こんな時間に取り替えは無理だ」
「でも……お風呂入らないと気持ち悪いし」
諦めきれずボイラーのスイッチを連打していると、並木主任が私の手を止め「じゃあ、温泉行くか?」ってニッコリ笑う。
あっ、そうか。その手があったんだ。
急いで着替えを用意して並木主任と社用車に乗り込む。温泉までの短いドライブだ。車内での話題は、以前、温泉に行った時のこと。その流れで放線菌の話しになった。
これからも放線菌の研究は続けるのかと聞くと、並木主任は前を向いたまま大きく頷く。
「お前と約束したもんな。少しでも早く病気で苦しんでいる人を助けるって。そしてどこの国に住んでいようが、平等に治療が受けられるようにする」
「あ、私が言ったこと、覚えてくれていたんですね。でも、平等に……なんて無理ですよ」
半ば諦め気味に呟くも、並木主任は自信有り気な笑顔で「約束は守る」と言い切った。



