自分の大好物ばかりが並んだ食卓に笑顔が弾ける並木主任。よほど嬉しかったのだろう。終始冗談を言って私達を笑わせてくれていた。


そんな中、調子が悪くずっと聞き役に徹してした翔馬が口を開く。


「ねぇ、並木さん、並木さんが東京に行ったら、姉貴とは遠距離恋愛になるけど……寂しくない?」


翔馬の質問に私と母親はこっそり顔を見合わせ苦笑いしたが、並木主任は本当に切なそうな顔をして「寂しいに決まってるだろ?」と呟く。


それが演技だと分かっていても熱いモノが込み上げてきて、もう少しで『私も寂しい』って叫びそうだった。


嘘でもいい。その一言が聞けただけで私は幸せ……


でも、そんな幸せな時間はあっという間に過ぎていき、まだ咳が酷く辛そうな翔馬は自室に戻り、私と母親は食事の後片付けに取り掛かった。


だが、なんだか母親の様子がおかしい。聞けば、お昼ごろから寒気がしていたそうで、とうとう節々まで痛くなってきたと。


「翔馬の風邪がうつったのかしら?」

「かもね。辛いならもう寝たら? 片付けは私がしておくから」

「そうね、じゃあ、お風呂お願いね。並木さん、昨日はお風呂に入らず寝ちゃったから、早めにお湯入れてあげて」


自分の体より並木主任のことを心配している。母親にとって並木主任はもう家族の一員なのかもしれない。そう思うと母親の期待に応えられなかった自分が情けなくなる。


心の中で母親に詫びていると、いつの間にかバスルームに行っていた並木主任の焦った声が聞こえてきた。


「おーい、風呂のボイラー点かないぞ」