――翌日……


朝になっても翔馬の熱が下がらなかったので、近所の掛かり付けの医院に駆け込んでインフルエンザの検査をしてもらった。すると、結果は陰性。どうやら風邪だったようだ。


しかし、ただの風邪だと侮ってはいけない。拗(こじ)らせれば長引いて受験に影響が出る。とにかく今は安静にして早く治ってもらわないと……


そして今日は、並木主任がウチで過ごす最後の日。引っ越しは明後日だが、まだ部屋の片付けが済んでいないそうで、明日は社宅に戻ると言っていた。


並木主任のことは忘れようと決めたのに、いよいよお別れかと思うとやっぱり寂しい。


最後の日がクリスマス・イヴということもあり、母親とお昼過ぎからケーキを作り、並木主任からリクエストされた料理を用意する。が、「コロッケに茶碗蒸し、それに筑前煮って……全然クリスマスらしくないわね」と母親は苦笑い。


「そうだね。でも、並木主任はこういうのが好きなんだって」


ふと居間の方に目を向ければ、並木主任が難しい顔をして参考書と睨めっこしている。翔馬の為に試験に出そうな重要な箇所に付箋を貼ってくれているんだ。


その真剣な横顔は、惚れ惚れするくらい凛々しくて見飽きることはない。


この姿を見るのも今日が最後。明日からは、また家族三人の生活に戻るんだ……


この期に及んでまだ未練タラタラの自分に呆れてしまう。でも気付けば、彼の姿をぼんやり眺めていて慌てて目を逸らすを繰り返していた。


それから一時間後、全ての料理が出来上がり、翔馬も起きてきて四人全員で食卓を囲む。