「俺が好きな女?」
いきなり妙な質問をしたからか、今まで何を言っても反応が鈍かった並木主任が私の方を向き、少し体を起こす。
「好きな人、居ますよね?」
声のトーンを下げ、微かに見える彼の顔を凝視する。すると、拍子抜けするくらいアッサリ「あぁ、居るよ」と認めた。
「俺が好きな女は、笑った顔も怒った顔もめっちゃ可愛いぞ。まぁ、ちょっとヌケてるところがあるが、そこがまたいい。一緒に居て全然飽きないからな」
だんまりから一変、やたら冗舌に彼女を褒めまくる並木主任に唖然とする。
暗くて彼の表情を窺い知ることはできなかったが、声の感じで嬉しそうだということは容易に想像できた。
「それに、俺と出会うまで誰とも付き合ったことがなかったんだ」
「……えっ?」
ということは、彼女にとって並木主任は初めての人……
彼女が並木主任しか知らない初心な女性だったということが分かり、今まで男慣れしていると背伸びしてきた自分がバカみたいに思えてくる。
彼女のことなんか聞かなければよかったと後悔している間も、並木主任の惚気話しは続く。
「初めてキスした時は恥ずかしそうに震えていたよ。その時の顔も可愛かったな~」
「……もういいです」
「んっ? なんだ?」
「もういいって言ったんです! おやすみなさい」
強引に会話を終わらせると並木主任に背を向ける。そして布団を頭まで被り耳を塞いだ。
聞きたくない……もう何も聞きたくない。



