アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


並木主任、勘違いしてる。でも、勘違いしてくれたことに心底ホッとした。結婚が決まっている並木主任に私が気持ちを打ち明けたところで迷惑なだけ。よけい気まずくなってギクシャクするだけだもの。


「……そうです。並木主任を信頼してお任せしたのに、ガッカリです」


心にもないことを言って潤んだ瞳を隠すように視線を落とす。すると、私の肩を掴んでいた手の力が抜け、スルリと滑り落ちていく。


「その件に関しては言い訳はしない。悪かった……」

「えっ……」


いつも我が道をばく進して自分の非を認めない並木主任が、まさかこんなにアッサリ謝ってくるとは思っていなかったから、少々戸惑う。


「せめてセンター試験まで傍に居てやりたかったな。本当にすまない」

「あ、いえ、異動は本社命令なんですよね? だったら、並木主任のせいじゃない……」


そこまで言い掛けてトイレで女子社員が話していた言葉を思い出す。


並木主任は情報漏洩を否定しているけど、それが原因で今回の異動になったのは明らか。ということは、並木主任もどこかへき地に飛ばさるんじゃあ……


そのことを訊ねると、並木主任は苦笑するだけで何も答えてはくれなかった。それはつまり、飛ばされるということだ。


今度は私が彼の肩を揺すり、どうしてやってもいないことでそんな仕打ちを受けなければならないのかと問う。が、並木主任は静かに笑うだけで、私がどんなに理不尽だと訴えても無言を通した。