うわっ……並木主任が居たんだ。
機械仕掛けの人形みたいにカクカクと小刻みに振り返れば、並木主任が眉間にシワを寄せ私を睨んでいる。
「あ、何か……?」
蚊の鳴くような小さな声で聞き返した時には、既に並木主任はすぐ目の前に立っていて殺気に満ちたおどろおどろしいオーラを放っていた。
ひぃ~こわっ……
身の危険を感じ後ずさるも、後ろの壁に阻まれ逃げ場を失う。それならと、並木主任の横をすり抜けようとしたのだけれど、彼が私の体を挟むように壁に両手を付き、それも阻止される。
ジリジリと迫ってくる並木主任に怯えながら、私はいったい何をしたんだろうと必死に考えるが分からない。でも、こんな怖い顔をしているんだ。絶対怒鳴られる。そう思ったのだが……
「なんで送別会に来なかった? お前が来るの、待ってたんだぞ」
「へっ?」
並木主任、そんなことで怒ってたの?
「それに、ここ何日か、俺のこと避けてただろ?」
「あ……」
なるほどね。それもあったんだ……あのね、並木主任、並木主任を避けていた理由はね、あなたが好きだから……大好きだから避けていたんだよ。
そう言えたならどんなに楽か……でも、それを言ってしまったら、抑えていた感情が溢れ出し涙が止まらなくなりそうで……
そんな姿を見られたくなくて唇を噛み、彼から目を逸らすと、大きな手が私の肩を激しく揺する。
「俺が約束を破ったからか? 翔馬を大学に合格させてやるって約束したのに、急に東京に戻ることになったからか?」



