アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


ベッドの横に敷かれた布団を見つめ、これじゃあ私の方が落ち着かないとため息を漏らす。こうなったら私が居間で寝るしかないか……そう思った時、隣の部屋で寝ていたはずの翔馬がひょっこり顔を覗かせた。


「へぇ~並木さん、姉貴の部屋で寝るんだ」

「あ、えっと、それは……」


熱で辛そうな顔をしていた翔馬が嬉しそうに笑っている。そんな姿を見てしまったら、居間で寝ようと思っているなんてとても言えなくて渋々口を噤む。


しかし翔馬は、そんな私の優しさなど知る由もなく、すっかり忘れていたエッチ疑惑を蒸し返す。


「コソコソとあんなことしてたから、やっと一緒に寝れて嬉しいだろ?」


まだ誤解を解いてなかったことに気付き、慌てて「それは……」と言い掛けると、並木主任が「嬉しいに決まってるだろ?」って笑顔で言葉を被せてきた。


「並木さん、マジで姉貴のこと好きなんだ~」


満足そうに微笑む翔馬。でも、母親は意味が分からずキョトンとしている。


「ねぇ、あんなことって?」

「な、なんでもないよ!」


否定したくてもできないもどかしさと、逃げ出したくなるような恥ずかしさ。堪らず母親と翔馬の背中を押し叫んでいた。


「もういいでしょ? ふたりとも出てって!」


翔馬をトイレに、母親を一階に追いやると部屋のドアを閉め、ホッと息を吐く。しかし私は忘れていたんだ。翔馬や母親より、もっと手強い相手が残っていたことを……


「……おい、ちょっと話がある」