「わざわざ言うことじゃないって思っているんだよ。とにかく、私も並木主任のことは忘れることにしたんだから、もう並木主任の話しはしないで!」
抱えていたクッションをソファーの上に投げ捨て叫ぶ。でも、心配してくれている母親に当たるのは筋違いだということはちゃんと分かっていた。分かっていたけど、溜まりに溜まったストレスが爆発して自分の気持ちをコントロールすることができなかったんだ……
そんな自分が凄くイヤで居間を出ようとドアノブに手を掛けた時、ドアが自然に開く。
一瞬、並木主任かと思い血の気が引いたが、居間に入って来たのは、二階で勉強していたはずの翔馬だった。
「あぁ……姉貴、風邪薬とかあったっけ?」
「えっ、具合悪いの?」
見れば、目がトロンとしてダルそうな顔をしている。慌てて熱を測ると三十八度。インフルエンザを疑ったが、今病院に連れて行ってもまだ反応はでないだろうということになり、様子を診ることにした。
来月にはセンター試験ある。今が一番大事な時なのに……
インフルでないことを祈りつつ、翔馬を自室に隔離すると私と母親も罹患防止の為、マスクで防備する。が、母親が「あっ!」と声を上げ、慌て出す。
「並木さんはどうしよう……」
そうだった。並木主任は翔馬の部屋で寝ていたんだ。インフルの疑いがある翔馬と一緒の部屋に寝るのは危険だよね。
しかし我が家に空いている余分な部屋はない。二階には私と翔馬の部屋が二部屋あるだけだし、一階の洋間は母親の寝室になっている。
残るは居間だけか……
どうしたものかと思案していると、玄関のチャイムが鳴った。



