アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


唯は間髪入れず「参加します!」と即答したけれど、私は少し迷って首を振った。


「えっ? 新田さんは並木主任担当じゃない。それ、ちょっと冷たくない?」


先輩に嫌味を言われ、唯にも参加しようと誘われたが、私は頑なに拒否した。なんと言われようと、もう並木主任とは関わらないって決めたんだ……


終業時間になると速攻でタイムカードを押し、引き止める唯を振り切って家に帰って来た。


いつもは夕飯を食べると慌てて自分の部屋に直行していたけれど、今日は並木主任の送別会。きっと、ファンの女性社員に二次会、三次会と連れまわされてすぐには解放されないだろう。久しぶりに居間でゆっくりできそうだ。


リラックスして母親とテレビを観て過ごしていたら、コメディータッチのドラマが終わり、コマーシャルになったのと同時に母親が話し掛けてきた。


「ねぇ、前から気になっていたんだけど……並木さんとなんかあったの?」


内心ドキッとしたが、平静を装い「……別に。何もないよ」と素っ気なく答える。


「そんなことないでしょ? 並木さんが東京に戻るって分かってから、並木さんと会話らしい会話してないじゃない」


母親はまだ並木主任のことを諦めていないようで、並木主任が東京に行くなら、私も一緒に東京に行ってもいいと言う。


「な、何言ってんの? いい? 並木主任は東京に戻ったら彼女と結婚するの。それはもう決まったことなんだから……」

「でも、並木さん、そんなこと一言も言ってなかったわよ」