アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】


そんな状態が数日続き、今日は並木主任の最後の出勤日、十二月二十二日の金曜日だ。


「並木主任、後三日で居なくなっちゃうのか~」


隣りの唯が独り言のように呟いてパソコンの画面からこちらに視線を移す。けれど私は気付かないフリをしてその言葉に反応しなかった。


唯が考えていることは分かっている。まだ三日あると言いたいんだ。あの後、唯に全てを話し、並木主任を諦めると宣言したのに、唯は納得せず、本当にそれでいいのかと私を責めた。


いいワケないよ。私は今でも変わらず彼のことが好きなんだから。でも、並木主任が彼女を選んで東京に帰ると決めたんだもの。もう私にはどうすることもできない。


お願いだから私のことはもう放っておいて……


心の中でそう叫びエンターキーを力一杯指で弾くと、先輩社員が私のデスクの上に"回覧"と書かれた紙が置き「どうする?」って聞いてきた。


「……並木主任の送別会?」

「そっ! 急に決まったのよ」


先輩はそう言うと身を屈め小声で話し出す。


「並木主任、本社に戻った後、どこかへんぴな地方に飛ばされるって噂よ。つまり、左遷ね」

「それ、本当ですか?」


先輩はあくまでも噂だと念を推し、私が入社する数年前にも同じようなことがあり、情報漏洩した人が離島にある閉鎖したはずの研究所に異動させられて精神を病み退職したことがあったと眉を下げる。


「だから並木主任ファンの娘達が同情して、せめて皆で温かく見送ってあげようってことになったみたいなの……で、ふたりはどうする?」