全貌を誰かに話したのは初めてだった。
どんな反応をされるのか、予想も出来なかったし、過去を思い出す事によってその時の恐怖が蘇って来てしまった。
ずっと温かいティーカップを両手で包み込んで居た筈なのに、いつの間にか其れは冷たくなり、自分の手と同じ位の温度になってしまっていた。
気付かぬ内に震えていた手を必死に力を入れて隠した。
然し、すっと手が伸びて来て、震えている私の手にその手が添えられた。
思わず彼の顔を見ると、いつか見た切ない様な、悲しい様な、そんな笑顔を浮かべていた。
その笑顔をただただ見つめた。

長い沈黙の後、やっと彼の名前を呟くことが出来た。

「・・・沢渡、さん?」

彼は視線を外す事無く、

「ごめんね、辛い事、思い出させちゃって。でも話してくれて有り難う。・・・何て、言えば良いのか、分からない、格好悪いよね。」

笑顔の儘でそう、呟いた。
あなたがそんな顔をする必要なんてないのに。
何も言い返す事が出来ず、ただただ首を横に振った。
添えてくれていた彼の手はとても暖かく、そこからじんわりと、温もりが広がっていく様な、そんな気がした。

暫く沈黙が続き、私も大分と落ち着いた。

「もう大丈夫ですよ、ありがとうございました。」

添えられていた手を両手で握りしめ、もう一度、「ありがとう」と告げ、手を離した。
すると何時もの笑顔に戻り、

「んーん、僕の方こそありがとう。そろそろ行こうか。」

こくん、と頷き、お会計に向かった。

お財布を出そうとすると、制止され、

「この前蒼佑が言ってたでしょ?」

と悪戯に笑う。

それに釣られて笑ってしまう。

「ごちそうさまです。」

と素直にお礼と、頭を下げた。