「ねえ、細野。今日ね、佐田ちゃんがね」
「…うん?」
「ほら、佐田ちゃんね、恭(きょう)君のこと好きでしょ。だから、今日もくっついて、離れなくて」
「ごめん、ちょっとまって」
いつものようにクラスメートの話をしてるだけなのに、待ったがかけられる。
今日は珍しい事ばっかり起こる。
いつもの細野は、私の話を遮らないのに。
「ずっと気になってたんだけどさ。なんで、細野なの?」
「なんでって、……細野だから?」
いやあ、細野は細野でしょ?
それくらい、本人だってわかってるだろうし。
私に聞くことじゃないよね、それ。
「んー…そうじゃなくて。なんで名前で呼んでくれないの?」
「へっ?」
「俺の名前知ってるよね?」
「…知ってるよ」
知らないはずがない。
何度も何度も心の中で呼び続けた、その名前を。
今更忘れるわけがない。
「ね、呼んでみて」
えっと、なんで?
「い、今まで!そんなこと言わなかったじゃん」
「だって、いきなり押し付けるのも嫌かなーって思ったし。でも、もう、いいよね?」
繋いでいた手を離して、ずんと細野が近づく。



