「もう、行きなね」
びっくりして彼を見ると。
「起きてたんですか?」
「起きてるよ、全部生物の先生の話聞いてた」
でも寝たフリしてた。
そう言って彼は楽しそうに笑った。
楽しいことなんか全然ないのにね。
「どうして、誰もあなたに構わないんですか?」
「どうして、かあ。それは他の人に聞いて。喜んで教えてくれるよ。てか、そろそろ本当に行きな。もうすぐ本鈴なるから」
「あなたは?」
「俺はまた寝るかな。これからここでは授業ないし」
「そうじゃなくて、名前は?」
ねえ、知りたい、と思ったらおかしい?
なにもかも抜きにして、あなたのことを知りたいの。
「…俺は、琢磨(たくま)」
「琢磨…」
「そ。ねえ、社交辞令のために聞いてあげる。君は?」
「私は、実伶奈」
「実伶奈、ねえ。…ああ、あの有名カップルの片割れか。じゃあね、片割れさん」
「私、片割れなんて名前じゃ…」
キーンコーンカーンコーン……。
「ほら、行って。…実伶奈」
不思議なものを持つ、あなたとの出会い。