あ…やだっ。


あたしはパッと顔を背けた。


早く帰らないかな…。


そう思いつつ二階の部屋へ籠もろうとする。


「あ! ひな子、ちょっとちょっと」


ん…?


階段に足を掛けたところで、キッチンから呼ぶお母さんの声。


仕方なく方向転換だ。


「なに?」


「悪いんだけど…夕飯の用意お願いできる? お母さん自治会の集まりでこれから行かなきゃいけないのよ…」


「え…」


「肉じゃがなんだけど、途中まで作ってあるから。後は本見て味つけて?」


言いながらお母さんは鍋の蓋を開け、側に置いてあるレシピ本を指差した。


肉じゃが…。


ってか、これ何人分よ?


鍋を覗くあたしに、お母さんは出る準備をしながら言う。


「それから…。今日は永治くんもうちで食べてくから」


「は…っ!?」


「じゃ、頼んだわよー」


「ちょっ!」


時すでに遅し…。


嫌だ、と言う間も無く、お母さんは出掛けてしまった。


「…そーいう事だから」


ビクッと肩が揺れた。


いつから居たのか、背後に立つ彼を怪訝な目で見上げる。


「…できるよな? 肉じゃがぐらい」


意地悪く笑う彼から目を逸らし、あたしは内心で舌打ちをついた。