あれから数日が流れた。


永治とはあの夜以来、一度も顔を合わせていない。


寝ても覚めても、考えるのは永治の事で。


大学の講義中でさえ、あの深い黒目を思い出し、あたしはその度に胸を痛めた。





永治に会いたい…。





今さら切にそう願うなんて、凄い皮肉。


けれど、あたしは大学が終わると、急遽バイトを休んでしまった。


電車に乗り、自然と足がおもむく場所。


閑静な住宅街を目前に、あたしは立ち止まった。


弟の秋人が通う高校は、ここからすぐ側にある。


ブロック塀から覗く、その木の角を曲がれば正門が見える。


知ってて動けなかった。


時刻は午後4時を幾らか過ぎている。


学生にとっての放課後のため、時折、ちらほらと高校生が通り過ぎた。


秋人と永治は…多分まだ部活動のはず。


住宅地の塀に背中を預け、足元を見つめた。





なに…、やってるんだろ。




肩から掛けた鞄をギュッと握り締める。


この高校のOBでも無いのに、あたしは完全にアウェイだった。


まさかこんな所で待ち伏せする訳にも行かず、諦めて帰ろう、と思った。


「え…? ヒナ?」


不意に聞き慣れた声が、あたしの足を止めた。


永治だ…。