あたしの…顔しか…?


あたしは…?


「…エージ」


見つめられる、黒く深い瞳。


あたしは眉を垂れ、再び視線を交わした。


永治は傷付いていた。


分かりやすいぐらい、痛々しく寂しげな表情。


胸がズキンと、また痛んだ。


気付くとあたしはそのまま手を伸ばしていた。


永治の頬へ触れ、その体温を確かめたかった。


けれど、伸ばした右手はいとも簡単に振り払われてしまった。


「も…、いーよ」


そう言って永治は背を向ける。


「同情とか…いらねーし」


「ちが、」


否定する事なら他にもあった。


彼氏なんていない。


今日はたまたまバイトが遅くなっただけで、デートなんかしていない。


なのに言葉が続かなかった。


「もう…。困らせたりしねーから」


そう言い残し、永治は去って行った。


酷く寂しげなその背に、すがるような視線を送るが。


彼は振り返らない。


あたしはその時、微かな揺れを感じ、自分が震えているのだと分かった。


小さく深呼吸すると、シンと冷えた夜気が肺にたまる。


不意にこみ上げるものを感じ、それを飲み下すため、鼻をすすった。


海に似たしょっぱい香りがして視界が歪む。