いま、お礼言われたよね?
なんだ、普通に良い先生じゃん。


私は伊藤先生が鍵を閉めに戻ってくると思い待った。


「菅野さん、なんでまだ残っているんだ。」

「先生にさようならって言おうと思って。」


私は咄嗟に言っていた。本当は何も考えていなかった。


すると、先生は笑って答えた。


「ふっ!君って、面白いな。ははは!」


初めて笑った顔に私は私だけしか知らない顔のように思った。
けれど、そんな訳がないかとすぐ思い直す。


「先生でも笑うんですね。」

「あ、うぅんっ。君が笑わせるからだ。」


わざとらしく咳き込んで、厳しい顔に戻す先生。
でも、そんなとこも楽しくて仕方がない。


先生の色んな表情を見たいな。


でも、そんなことを声に出して言えるわけもないし、それにこれ以上今日は怒られたくなかったから言わなかった。


「ほら、早く帰りなさい。」

「はい。さようなら。」

「気を付けて帰れよ。」


私はスキップしそうなほど嬉しい気持ちを抑えながら帰った。


もしかしたら、このときにはすでに好きになっていたのかもしれない…