「単純じゃないって……」


なに、と聞こうとした時、宇佐美くんがぐいっと私を引き寄せる。


すると私の肩に顔を埋めた。


「う、宇佐美くん……」


彼の香りに包まれる。

いつもと違う宇佐美くんの鼓動。

私までうつってしまいそうだった。


「ねぇ結衣さん。しばらくこのままでいさせて」


宇佐美くんの体が熱い。

耳のすぐ横でささやく声がくすぐったい。


このままじゃダメだ。


「ダメ、離れて……っ」

「命令にしたら聞いてくれますか?」


なんで、どうして。

いつもニヤリと笑う顔はそこには無かった。


傷ついたような顔をして、彼は優しく問いかける。

ダメだなんて言えなかった。


「命令なら仕方ないから……す、少しだけなら……」

「ありがとうございます」


彼が私の肩に体をあずける。


ーートクン、トクン、トクン。


リズムよくなる心臓の音を心地いいと感じたのはこの日からだったかもしれない。